--.--.--(--):スポンサー広告
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

2012.06.25(Mon):レアーナSS
★注意事項
※一部アンオフィに抵触する設定があります。
※前半、ちょっとしたホラーテイストでお送りします(グロではありません)。
※素人の稚拙な文章です。読むに耐えない表現もあるかもしれません(笑
※SSと言いつつ結構な長文になっています。お時間に余裕のあるときにどうぞ。
以上の事項がお気に障る方、苦手な方、またはそもそも興味のない方は、読み飛ばすことをお勧めします。
では・・・。

【More...】

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 修学旅行で訪れた半年振りの祖国。懐かしい風が頬を撫で、この街では珍しくも無い金髪が揺れる。
 少しくすぐったいその感触に、友人との談笑をやめて足を止める。揺れる髪を押さえ、ドイツの街並みを広く視界に納めた。
 フランクフルトからはまだ遠く、私が育ったラインハルトの森は僅かにすら見ることは出来ない。
――還りたい。
 強い郷愁が心の端に滲み出し、あっという間に胸を埋め尽くす。
 ぐっと顔を伏せ手を胸に当てて、それは駄目だと自分に言い聞かせる。それは、あの時の誓いを反故にする行為だ。私はまだ、まだ何も――
「レアーナ、どうかした?」
 前を歩いていた親友が、立ち止まって俯いている私に心配そうな声で呼びかけてくる。
「・・・ううん。なんでもない。行こっ」
 顔を上げ、熱くなった目頭に気付かれないよう先に立つ。その言葉とは裏腹に、私はあの時の記憶を反芻し、もう一度、誓いを胸に刻み込む。
 それは、私が10歳の誕生日を迎えて間もない頃の記憶。思い返せば今でも悔やまれる。私がもっと早く気付いていれば、と。
 そう。
 私が気付いた時にはもう、手遅れだったのだ。

   ◆◆◆◆◆

『―――――』
 その日、ふと何かの声が聞こえた気がして、私は森に入った。
 理由はともかく、森に入ること自体は私にとって特別なことじゃない。声の正体が分からなければ、いつものように森の奥にあるリンデンバウムの元で謡い、果物を取って帰って来ればいい。
 そう思っていたのに。
 森の気配がいつもと違う――
 気付いた時にはもう、手遅れだった。
 いつもと同じ道を、いつもと同じペースで歩いていたはずなのに。そこはいつしか、私の知らない森になっていた。
「・・・なんで、なんにも音がしないの・・・?」
 両手に抱えた果物で一杯のかごが地面に落ち、その音がやけに大きく森に響く。
 いつの間にか周囲から一切の音が消えていた。
 木々のざわめきも、水のせせらぎも、動物たちの話し声も。
「・・・なんで、こんなに空が黒いの・・・?」
 見上げた空は一面の黒で覆われていた。暗いのではなく、「黒」い空。
 後で知ったことだが、それはゴースト達が生み出すという特殊空間だった。この世ならざるモノたちが現界し、人間に何らかの形で干渉してくる前兆。
 もちろんその時の私はそんなことは知らず、ただただ不安に駆られて足を早めるだけ。
 ・・・いや、例え知っていたとしても、きっと変わらなかったと思う。人見知りの激しい私は、人間だけに限らず「知らない森」に対しても同じ感情を抱いていたのだから。
 行けども行けども見知らぬ木々。歩けど歩けど音は聞こえず。
(イヤだ、イヤだ、イヤだ・・・怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い・・・!)
 頭の中で警鐘が響く。次第に速く大きくなる心音が胸を叩き、それに伴って早められた足はさらにその速度を上げ、やがて土を蹴り、もつれる様に回り始める。
 気が付けば、私は全力で森を駆けていた。足元も視ずに固く目を閉じ、望んだはずの音すら遮るように耳を塞いで、懸命に走っていた。そして――
『―――アソボ』
「ひっ!」
 耳を塞ぐ手を通り抜けて頭に響くその「恐怖」に、転がるように蹲る。
『―――イッショニアソボ・・・イッショニアソボ・・・アソボ・・・アソボ・・・』
「いや・・・イヤイヤイヤッ!知らない・・・あなたなんか知らない・・・!」
 頭に直接杭を打ち込まれるような感覚。私はそれを締め出すように絶叫を上げる。でも、そんな私の抵抗を嘲笑うかのように、声は響き続ける―――
『―――アソボ・・・アソボ・・・アソボ・・・アソボ、アソボ、アソボ、アソボ、アソボ、アソボアソボアソボアソボアソボアソボアソボアソボアソボアソボアソボアソボアソボアソボアソボアソボアソボアソボアソボアソボアソボアソボアソボアソボアソボアソボアソボアソボアソボアソボアソボアソボアソボアソ――』
 突然ぶつっ、と声が止まる。
 ・・・諦めてくれたのだろうか。辺りは元の静寂を取り戻している。でもそれはまだ、本来の「森の音」の無い、無音領域。
 塞いでいる耳が痛い。
 キィィィィィン・・・と、無音ならではの耳鳴りが頭に響く。口から飛び出しそうな心臓も、相も変わらず早鐘のよう。
 まだ「ソレ」が近くに居るのではないか、そんな恐怖に囚われて、私はしばらく身動きを取れずにいた。
 どれくらい時間が経ったのか。
 辺りは変わらず無音のまま。でも先ほどの声に比べれば、静かなだけの状態などずっとマシに思えた。
 少しだけ冷静さを取り戻した私は、そろり、そろりと耳から手を離す。
 先ほどの声は――聴こえない。
 次いで、俯いたまま恐る恐る目を開ける。
 視線は真っ直ぐ地面に向けたまま、視界の端で自分の周りを確認――なにも、いない。
 そのことに安堵のため息を漏らし、私はスッと立ち上がり――
 巨大なヒトガタの白いモヤが、視界を塞いだ。
『オオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッ!!!』
 耳じゃない、頭でもない。その咆哮は心を、魂を打ち砕くような悲しみの怨嗟。
 皮膚が粟立つ音が聴こえる。筋肉が収縮する音が、骨が震え軋む音が、破裂しそうな心臓の音が、キュッと縮まる瞳孔の音が――
「イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!」
 喉が裂けるような絶叫。
 視界が赤黒い錆色に染まる。
 震える足は言うことを聞かず、ぺたりと地面に座り込み、悲鳴を上げた口は大きく開いたままガクガクと痙攣し、私はもはや気を失うことすら出来ずにその巨人の怨嗟に囚われていた。
 ゆっくりと私に向けて伸びてくる巨人の手。
 ヒュー、ヒュー、と恐怖に絞められた喉から空気が漏れる。
 止め処も無く涙が溢れ、頬を伝い、唇を濡らす。
 そしてゆっくりと、霞がかった白い手が目の前に迫り――
 ざぁぁぁっ・・・・・っと森が鳴った。その音は、私の良く知る森の音。
 木々が唄う。
 水が囁き風が踊り、大地が力強い鼓動を伝えてくる。次々と耳に届く、懐かしい森の音色。
 巨人が動きを止め、見回す様に頭らしき部位を巡らせる。
 空は未だ黒いまま。でも、私の目には確かに視えていた。その巨人よりもさらに高く、天を突く様にそびえ立つ彼女は、ラインハルトの森の奥に在る菩提樹、リンデンバウム――
『―――謡って』
 シャンッ・・・と、清かな鈴の音のような声が、暖かく心に沁み込んで来る。聞いたことなんて無かったけれど、私にはなぜか、それが目の前に在るリンデンバウムの声だとわかった。
 詩。
 私が足しげく森に通い、彼女の根元で謡ってきた沢山の詩。彼女がそれを望んでいる。
(立たなきゃ)
 へたり込んだままではお腹に息を吸い込めない。震える足を強引に立たせ、膝に手を置いて体を起こす。
 白い巨人は変わらず目の前に居たけれど、私はもう、謡うことしか考えていなかった。
 強く大地を踏みしめる。足の震えがぴたりと止まる。
 長い金髪が風に靡く。砕けた心が一つに納まる。
 大きく見開いた碧い瞳が、大好きなラインハルトの森を映す。
 そして私は、目一杯お腹に息を吸い込んで――
「夢は花、祈りは泉、願いは雲に、想いは空に。
 風は光と輪舞を踊り、大地の嬰児に祝福を捧ぐ。
 眠りましょう、眠りましょう。清かな声に導かれ、優しい森で眠りましょう。
 巡りましょう、巡りましょう。流れる水に身を委ね、絆交わしたる母なる森を。
 還りましょう、還りましょう。我等守護せし菩提樹の元へ、森に遍く精霊と共に・・・!」
 両手を広げ、空に、森に、響かせるように詩を紡ぐ。
 赤黒く染まった異界の森が鮮やかな緑に塗り替えられる。
 黒い空には無数の亀裂が入り、甲高い音を立てて砕け散る。後には抜けるような群青の空。
 私の歌声と森の旋律は光り輝く十字架に変わり、巨人を包む白いモヤを消し飛ばしていく。
 世界が反転し、今度こそ、見慣れたラインハルトの森が姿を現した。
 そして私の目の前、巨人の姿が消えたそこには――
「・・・男の子・・・?」
 そこには、10歳の私の目から見てもまだ幼い、小さな男の子がうずくまっていた。細い足には、地面から繋がる無骨な鎖。
『ママ・・・ママぁ・・・』
 か細くお母さんを呼ぶ声は、確かにさっきまで私に向けられていた怨嗟の声。
 そうか、と私は突然に理解してしまう。この子は、私と同じなんだ、と。
 森に、捨てられたのだ。心無い親の手によって。なにか事情はあったのかもしれない。でも、そんなのはこの子には関係のないことだ。だって、こんなにも一生懸命お母さんを呼んでるのに。消え入りそうな小さな声で、一人ぽっちの寂しさに震えながら、それでも必死に呼んでいるのに。
 私もこの森に捨てられた。分けもわからず一人ぽっちで、父を呼び、母を呼び、昏く沈む森の闇に恐怖し、ひたすら泣き声をあげ続けた。そして…私はおじいちゃんに拾われた。泣き叫ぶ私の頭を大きな手で包むように撫で、抱きしめてくれた。
 でも、この子は。
 小さな体は薄く透け、その背を介して苔の生えた地面が見て取れた。そして足元には、僅かに残された白い骨――
 そう。
 気付いた時にはもう、手遅れだったのだ。
 私のように誰かに拾ってもらえることもなく、恐怖に襲われ寂しさに駆られ、ただ一人ぽっちのままで、私の半分にも満たない生涯を終えたのだ。
 私はそっ・・・と彼の前に跪くと、その背を抱き、頭を撫でた。
『・・・ママ・・・?』
「・・・ごめんね、気付いてあげられなくて・・・ごめんね、キミのママじゃなくて・・・ごめん・・・ごめんね・・・」
 私の言葉は届いていないのだろう、彼は私の体にぎゅっと抱きついて、
『ママ、ママ、ママぁ・・・』
 と、必死にすがり付いて来た。
 もし間に合っていたのなら、お姉ちゃん、なんて呼ばれていたのだろうか?
 彼が私をあの世界に呼び込んだのは、ただ人恋しかっただけなのだろうか?
 あの巨人の姿は、お母さんに見つけてもらいたかっただけなのだろうか?
 そんな取り留めの無いことを考えながら背中を撫でていると、再びあの白いモヤが集まってきているのに気付いた。
 もう、手遅れなのだ。
 私がどんなに抱き締めても、この子がお母さんに逢えることは無い。彼を大地に縛める鎖を、断ち切ってあげることはできないのだ。彼をこのままにしておけば、きっとまた誰かがあの世界に連れて行かれるだろう。私は森に救われたが、その誰かも助かるとは限らない。それに、なにより――
『ママ、ママ、ママ、ママ、ママぁ・・・』
 もう、見ていられなかった。
「・・・・・・ごめんね・・・」
 祈りが収束し、頭上に一条の光が浮かぶ。
 最後にぎゅっと、ひと際強く抱き締めて。
 祈りを束ねた無慈悲な槍が――彼の背を貫いた。

   ◆◆◆◆◆

 数日後、私はおじいちゃんと共にリンデンバウムの根元に穴を掘っていた。もちろん、彼の亡骸を埋葬するためだ。
 私は、ひと月近くも行方不明になっていたらしい。
 森を走り、慣れない力を行使した私が満身創痍で家に帰ると、おじいちゃんは息が詰まるほど強く私を抱き締めた。大の大人が大声で泣きながら。
 その温もりを全身で感じつつ思う。あの時私は、この何分の一かでも彼に同じ温もりを与えることが出来ただろうか・・・と。
 私は著しく衰弱していて、しばらくベッドでの生活を余儀なくされた。その間、おじいちゃんは片時も私の傍を離れようとしなかった。
 ぽつり、ぽつりと今回の出来事を話す私。信じてくれているのかどうかは分からなかったけど、ただ穏やかな顔で私の話を聞いてくれた。
 そうして動けるようになった今日、やっと彼を葬って上げることができたのだ。
 おじいちゃんと二人、リンデンバウムに祈りを奉げる。
 でもこれはきっと、私の自己満足でしかない。埋まっているのは僅かばかりの遺骨だけで、彼の魂はここには無い。
 だってあの子の魂は、確かに私が殺したのだから。
 一人ぽっちで泣いている子供を見つけ、救うことも出来ずに止めを刺したのは、確かに私なのだから。
 ――最低だ。
 あんなに泣いてたのに。私も同じ気持ちを知っていたはずなのに。
 涙が止まらなかった。
 救えなかった自分が許せなくて。
 力の無い自分が悔しくて。
 他の方法を考えようともしなかった無慈悲な自分が怖かった。
 後悔ばかりが胸の中で渦を巻く。
 いつまでも泣いている私を見て、おじいちゃんが頭を撫でてくれる。
「おじいちゃん・・・私・・・私ぃ・・・」
「――覚えていてあげなさい」
「・・・っ」 
 息が詰まった。
 優しい瞳がリンデンバウムを見上げていた。生者が死者にしてあげられるのはそれだけだと、ただ祈りを奉げていた。
「う・・・ふぇ・・・」
 私はおじいちゃんの広い胸にしがみつく。ちょうどあの時の彼のように。
 こぼれる涙が、堪えている声が、やがて激しい慟哭に変わる。
 覚えていよう。あの子のことを。犯した罪を、その痛みと共に。
 あの子のことだけじゃない。
 私はきっとこれからも、沢山の出会いと別れを繰り返す。
 その中にはきっと、今回と同じようなこともあるだろう。私が奪い、傷つけ、全てを無に帰してしまうような出来事が。
 決して忘れない。出会いの喜びも、別れの悲しみも、傷つく痛みも傷つける痛みも、大切なものを失う悼みも。
 その全てを覚えていよう・・・と、自分に、そして二人に誓いを立てる。
 止むことなく森に響く慟哭を、おじいちゃんが、リンデンバウムが、いつまでも優しく包み込んでくれていた――

菩提樹の誓い


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 素人の稚拙な文章を最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。
 よろしければご意見・ご感想などいただければ、背後さん大いに喜びますので。

 最後になりましたが、素敵なイラストを描いて下さったつづる絵師様に、多大なる感謝を。
 ありがとうございました。
Secret

TrackBackURL
→http://srlionrose.blog94.fc2.com/tb.php/53-2fc70928
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。